Hitotoki

Tokyo Stories from Curious Outsiders

011 : 新城 千代田区三番町御鹿谷坂下交差点, 千代田区
8月4日、東京生まれ、ライターです。東京では下町の飲み屋、能楽堂、皇居の芝生、国立博物館、何をするにしても便利なところが好きです。でも、通勤時間帯の電車、渋滞、混雑した博物館や美術館、昼食時の行列、高級ブランドショップは嫌いです。初めてお酒を呑んだ場所は、自宅。好きな山手線の駅は、有楽町。子供の頃に、初めて父親と待ち合わせをして映画を見に行った思い出があるから。新城にとって東京で一番日本的な場所は、ガード下。 詳しくは新城Eメール。 。ホームページはこちら:小説・攻略本・伝統芸能

image: pict_u_re

“涙を流しながら煙を吐く彼の隣”

30年来の親友と携帯電話で話しながら、近所をふらふらと散歩していた。
台湾で暮らす彼とはなかなか会えず、たまの帰国でも二人きりになることはなく、込み入った話ができずにいた。だから、本当に久々に、二人で話す機会だった。積もる話[1]があったのだが、とはいえ電話では話しづらいな、と思っていた。

千代田区は路上禁煙地区[2]だ。多くの建物も屋内禁煙となっている。
そのため、タバコの自動販売機のある交差点に設置された灰皿周辺は、喫煙者の集う場所となっていた。
しかし、人影まばらな日曜日の昼間、そこには誰もいなかった。

通り過ぎたとき、黒いスーツ姿の20代くらいの男が二人、目の前の建物から足早に出てきた。
ぴったりと寄り添い、一方がもう一方の背中に手を回していた。
手を回されている方の彼は、ボロボロと涙をこぼしていた。そして、胸ポケットからタバコを取り出し、震える指先で一本抜き取った。
二人は、角の灰皿の前のガードレールに並んで寄りかかった。
涙を流しながら煙を吐く彼の隣で、もう一人の彼は、タバコを吸うでもなく、ただ一緒にいた。
その様子が、とても、よかった。

そして、電話では話しづらいと思っていた自分をバカだなと省みた。
何でも話してみればいいのに、と。
そして、親友と話を続けながら、積もる話を切り出すために、ひと気のない場所[3]へ散歩を続けた。

referenced works

  1. 積もる話:ああ、このことを話したいな。そんな風に思いながらも、話すことができない。そうした状況が長く続くことで、話したい事柄が次から次へと心の中で積み重なり、溜まりに溜まった話。いざ話そうとすると、どこから話したものか、積もった話をほじくり返すことが大変な場合もある。もちろん、雪崩のように、すべてを吐露できることもある。
  2. 路上禁煙地区:路上喫煙禁止条例の適応される地区。2002年に千代田区に導入された後、他の区や市などにも広がっていった。千代田区では、区が灰皿を設置することはないが、店先などに設置された灰皿が愛煙家の憩いの場を構築する。これによって、井戸端会議ならぬ灰皿端会議が催されるわけだ。
  3. ひと気のない場所:ひと気とは、人のいる気配。気配とは、なんとなく感じられる様子。すなわち、ひと気のない場所とは、人がいる感じすらしない場所。東京でそうした場所を探すことは困難に思えるかもしれないが、すっぽりと抜け落ちたような場所というものは、どこの街にも不思議と存在する。

location information

  • 場所: 千代田区三番町御鹿谷坂下交差点
  • 時間:
  • 緯度: 35.6923
  • 経度: 139.743749
  • 地図: Google Maps

commentary

Sponsor

Art Space Tokyo

Interested in sponsoring Hitotoki? Contact us at sponsors@hitotoki.

Write for Us!

広い東京の中に、あなたの思い出を刻んでみませんか? あの日、あの場所で体験した、あの出来事。あなたにとって忘れられない思い出を、短い物語にして送ってください。

submission form

Subscribe to our RSS Feed

メールマガ