Hitotoki

Tokyo Stories from Curious Outsiders

012 : nog 豊島区目白南長崎1丁目交差点, 豊島区
1972年、青森生まれ、ライターです。東京では看板、小さな路地、自宅、都市の中に構える大きな公園の中、坂が好きです。でも、ごみを漁るカラス、ゴキブリ、夜中に街を走るネズミ、駅の公衆トイレ、悪臭が漂う街は嫌いです。初めてお酒を呑んだ場所は、祖父の家。好きな山手線の駅は、神田駅。本屋と古い喫茶店があるから。目白駅。よく歩いたから。nogにとって東京で一番日本的な場所は、永田町。 詳しくはnogEメール

image: Presidente

“細くぐるりと指を囲む、日焼けをしていない左手の薬指の根元”

目白は、私自身が住んだわけでも通ったわけでもないが、高校からの親友が住んでいたのでよく訪れた。当時学生だった私たちは、家族のように、時間の経過も気がつかないほど日常の長い時間を共に過ごした。お互いの親兄弟、付き合ってきた相手、食の好み、選ぶ洋服、好きな作家や音楽、大学の卒論課題まで知っていた。

その日は雨の週末で朝から寒く、コートを着ていたから、冬近い秋だっただろう。週休2日制[1]になる直前で、大学は午前の授業だけがあった。企業はすでに週休2日で、昼食を少し遠出して食べる約束をしていた人が、学校そばまで車で迎えに来ていた。

助手席に座り、先週同様1週間のことや、終えたばかりの授業の話をして、横で運転する人の質問に答え、仕事の話を聞いた。毎週末2人で出かけるのが当たり前のようになってきていたが、それは居心地の良さではなく、軽い高揚感の収束のようだった。

目的のお店で、先週同様向かい合い笑って食事をしながら、もう会わなくてもいいだろうと思った。細くぐるりと指を囲む、日焼けをしていない左手の薬指の根元に私が気づいていないと、この人は思っている。楽しかった、じゃあまたいつか、で済むことも、そんなつまらない隠し事が長引けばややこしくなる。自己陶酔の、茶番劇[2]

食事後、先週のように過ごすのはやめることにした。来週明けに提出のレポートがあるから帰る、と言うと、家まで送ると言った。気づけば車は山手通り[3]で、前方の青い案内標識に「目白通り」の表記があった。寄りたいところがあると言って、親友の家のそばの交差点手前で車を止めてもらい、送ってもらったことへのお礼を言って車を降りた。

車の中は暖かかった。ドアを開けると、冷やりとした空気と雨粒。解放感。事の収束はこれからだが、私の中では完結した。それを報告するために、すぐそばの親友の家へ軽い足取りで向かった。

referenced works

  1. 週休2日制:1980年代より導入されることとなった土曜日を休日とする制度。企業を中心に導入され、1989年には銀行などの金融機関、1992年に国家公務員においても完全週休2日制度が導入された。公立学校においては、2002年にようやく完全週休二日制となった。
  2. 茶番劇:見え透いた、底の浅い、ふざけた振る舞いや物事を意味する。この言葉は、江戸末期の歌舞伎において、客に茶を出す役割の「茶番」たちが行った下手な寸劇に由来する。見え透いた底から目をそらすことで、陶酔の上澄みを味わうことを好む者も多い。
  3. 山手通り:東京都道317号環状6号線の通称。仲宿交差点(板橋区)から、初台交差点を経て、天王洲アイル交差点(品川区)へ至る道路。東京の南北を貫く幹線道路は、東西に走る幾多の道路と、無数の交差点を作る。交差点は、停車のきっかけ。停車は、降車のきっかけ。

location information

  • 場所: 豊島区目白南長崎1丁目交差点
  • 時間:
  • 緯度: 35.723643
  • 経度: 139.693201
  • 地図: Google Maps

commentary

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