Hitotoki

Tokyo Stories from Curious Outsiders

005 : nog 杉並区荻窪のJR荻窪駅改札前, 中央区
1972年、青森生まれ、ライターです。東京では看板、小さな路地、自宅、都市の中に構える大きな公園の中、坂が好きです。でも、ごみを漁るカラス、ゴキブリ、夜中に街を走るネズミ、駅の公衆トイレ、悪臭が漂う街は嫌いです。初めてお酒を呑んだ場所は、祖父の家。好きな山手線の駅は、神田駅。本屋と古い喫茶店があるから。目白駅。よく歩いたから。nogにとって東京で一番日本的な場所は、永田町。 詳しくはnogEメール

image: Ulysses Powers

“向かい合って、仁王立ち”

何年かぶりに友人から突然の連絡。自宅の最寄り駅の改札口で待ち合わせする。
のんびり歩いてきたつもりが予定より早く着き、手元の文庫本を読もうと思いながら、何気なく周囲を見回すと、改札口そばに立つ20代前半らしきカップルに目が留まる。住宅地中心で乗降者の大半が住人の駅に珍しい、金髪ピアスでミニスカずり下げダボジーンズ[1]の2人。

向かい合って、仁王立ち[2]
にらみあって、無言。
一発触発。
ド迫力。

ちらと見ては通り過ぎる人々に目もくれず、双方のにらみ合いは続く。
私は、開いた読みかけの文庫本を1行も読まず、その状況をさりげなく見守り続ける。

駅改札前の修羅場を見るのは、4度目。1度目は渋谷駅ハチ公口前、50代らしきおばさま2人のつかみあい。2度目も渋谷駅、井の頭線改札前で、女の子が声を上げて号泣していた学生カップル。3度目は立川駅、ベビーカーに子供を乗せながら怒号を浴びせ合うヤンキー夫婦。

と思いをめぐらす間も、にらみ合いは続く。
私の待ち合わせの時間が刻々と迫り、この決着を見られるのかが気がかりになる。

すると緊張の均衡、わずかに動く。
いい加減にしろよ、と腕組みしていた手を解き、彼はほんの少し彼女の右肩を突いた。
無言のまま、同じように腕組みしていた手を解き、彼女は右手を上にかざした。

ばちーん。
電光石火。
彼の左頬に一発お見舞い。
試合終了。

その後すぐ、バッグから定期入れを出し、PASMOかSUICAかをかざし、鮮やかに自動改札を抜け中央線のホームへ向かう彼女。彼女へ背をむけ、うつむき加減で叩かれた左頬をさする彼。それを気づかれないように見守る私。その視野の中に、少し老けた友人の姿が入ってきた。

昔の西部劇。小さな酒場の入り口の二枚扉[3]は、決闘シーンの名脇役だった。そういえば、自動改札の二枚扉の形状、それに似ていないこともない。

referenced works

  1. ダボジーンズ:腰履きすなわちヒップハングする、ゆったりした形のジーンズ。O脚や短足のカモフラージュに効果的である。腰履き対応用の小さな下着も存在するが、奇妙な柄のトランクスを見せびらかすような着こなしも、多々見られる。
  2. 仁王立ち:仁王とは、仏敵を滅ぼす、筋骨逞しい金剛力士。阿形と吽形で一対を成し、法隆寺などの門の左右に立ち、訪れる者を見守ると同時に威嚇する。仁王立ちとは、仁王のごとく、どっしりと微動だにせずに立つ様子。日本のこっけい話にも登場する仁王は、間抜けだ。立つことに飽きた仁王がこっそり散歩に出たところ、婆が放屁した。仁王が笑うと、婆が「におうか?」とつぶやいた。散歩がばれたと思った仁王は、あわてて逃げ帰ったのだという。
  3. 二枚扉:正式名称は、ウエスタンドア。自動蝶番によって設置された二枚の扉が、バタンバタン。荒野の決闘。OK牧場の決闘。真昼の決闘。ゴーストタウンの決闘。墓石と決闘。決闘コマンチ砦。本当に、西部劇のタイトルには、決闘が多い。

location information

  • 場所: 杉並区荻窪のJR荻窪駅改札前
  • 時間: 夕方
  • 緯度: 35.705088
  • 経度: 139.620481
  • 地図: Google Maps

commentary

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